本報告書ではFigure-riseLABO 式波・アスカ・ラングレーの研究開発について最終結果の報告をおこなう。
今回、これまでとは異なるプラモデルによる表現を探求すべく、
式波・アスカ・ラングレーのテスト用プラグスーツの再現に取り組んだ。
研究テーマは「肌と密着した透明スーツ表現」
まずは研究開発の成果をご覧いただきたい。
なお、本記事における完成品の画像は全て無塗装である。
我々はレイヤードインジェクションの活用により
プラグスーツ[クリアオレンジ]・胸当て[イエロー]・肌[ペールオレンジ]
の3層を実際に積層することでテスト用プラグスーツの再現に取り組んだ。
一見して今回のアスカのパーツと従来のFigure-riseLABOのパーツとでは
レイヤードインジェクションの活用方法が同じように思える。
しかし、今回従来と大きく異なる点はレイヤードインジェクションで再現している1つのパーツの中に「異なるモノ」がふくまれているということだ。
Figure-riseLABO第1弾では「肌」の表現に取り組んでいるが、
これは表面のペールオレンジと内側の赤みを組み合わせて「肌」という1つのモノを表現したものだ。
第2弾の「髪」についても同様に、表面の半透明パーツと内側の不透明パーツとを組み合わせて「髪」という1つのモノを表現している。
一方、今回レイヤードインジェクションで再現しているのは「スーツ」と「肌」という異なるモノである。
この違いがパーツの中では「境界線を描く」という課題となった。
異なる層を重ねて1つのモノを再現する場合には層の境界線が溶けあい、交じり合っても問題は無い。むしろ、それがグラデーションを生み出しメリットとなっていた。
しかし、「肌」と「スーツ」という異なるモノを再現するにあたってはここが交じり合ってはいけない。しっかりと境界を描かなければ、肌の上に透明スーツが密着している、という状態は再現できないのだ。
では、そもそもパーツを分ければいいのではないか。
そうすれば当然境界を明確に描くことができる。
だが、その場合1つの問題があった。
パーツの間に「空気の層」が挟まれてしまうことだ。
劇中では、プラグスーツは着用後に収縮し、肌に密着している。
そこに空気の層が入ってしまうということは、「密着」を表現しているものとは言えなかった。
こうして、やはりテスト用プラグスーツの表現にはレイヤードインジェクションが必要であり、だからこそFiguer-riseLABOでチャレンジすべきものであるということが明確になった。
レイヤードインジェクションで密着感を表現しながら、境界線を描くにはどうしたらよいか。
1つ、ヒントになったのはロボットプラモデルで使用している「アドヴァンスドMSジョイント」だ。
これは2種類の樹脂をインサート成形で組み合わせているが、樹脂の融点が異なるのでくっつかず、ランナーから取り外せばそのまま関節にできるというものだ。
当然、樹脂同士は混じり合っていない。
この考え方を応用すれば境界線をしっかり描くことができると考えた。
しかしそのまま活用という訳にはいかない。
なぜなら「くっつかない」からだ。
このままでは積層した層同士が剥がれてしまうのだ。
従来のFigure-riseLABOのレイヤードインジェクションのように
1パーツのブロック構造になっていればある程度固定できる。
だが、今回はより立体的な造形と、生産性の向上を目指して
板状パーツを組み合わせる方向で開発を進める必要があった。
板状パーツを活かしたままの解決方法として、
層同士がロックされるような食い込みのある形状を設けた。
今回のアスカでは層の面積が広く、組みあがりに影響しないようにパーツのフチに設けたロック構造だけでは不十分だった。
しかし大きなロック構造を設けた場合、表面が透明であるため、構造を隠すことができず不自然な見た目になってしまう。
自然で美しい仕上がりを目指すには、組みあがりで目立たないフチにロック構造をいれつつ、
層同士が交じり合わずに、かつ積層した層が剥がれない、という樹脂の組み合わせを探す必要があった。
そして重要なのはそれらの条件を満たしつつ「テスト用プラグスーツ」の質感、
つまり透明度が高く、艶があるものである、ということだった。
クリアの色が濁ったり、艶の無い質感になってしまっては意味がない。
従来の商品で使用していた樹脂に加え、新たに樹脂の配合を変えたいくつものパターンで試行錯誤を繰り返した。
そして、今回の最終研究成果となる組み合わせにたどり着いた。
・透明度が高く
・つやがあり
・層同士が交じり合うことが無く
・剥がれにくい
というものだ。
表面のクリア部分は軟質素材の採用となり、触った質感もプラグスーツをイメージしたものとなった。
しかし樹脂の選定を終えても本研究が終わりでは無かった。
約3mm~約0.3mmまでの厚みの変動がある層を広い面積に成形するということは、
金型・材料がそろっていても簡単な話ではない。
レイヤードインジェクションではいくつかの層が混在しあう為、
射出圧力が高いと他の層を圧迫して変形してしまったり、
逆に加減をしすぎてしまうと樹脂が十分に行きわたらないなどの問題があった。
バンダイホビーセンターの成型現場では、職人たちにより材料を溶かす温度や射出圧力など成形条件の微調整が繰り返される日々が続いた。
構造・材料の研究、そして職人たちの技術によって「肌に密着した透明スーツ表現」は実現にいたることができた。
完成品フィギュアや塗装では再現が難しい、プラモデルならではの新たな表現といえるだろう。
以上